飲食業界の新たなスタンダードを目指して。老舗天ぷら料理店と挑む、AIによる“シフト改革”プロジェクト
Dialogue | File 002


2025.12.17
Food & Hospitality
飲食業界の新たなスタンダードを目指して。老舗天ぷら料理店と挑む、AIによる“シフト改革”プロジェクト
株式会社天一 代表取締役 矢吹友一さんと
銀座の地で開業し、今年で95年の歴史を持つ老舗天ぷら料理店「銀座天一」。全国46店舗を展開する同社は、長年の課題だったシフト配置手法の改善に挑んでいます。これまでは紙と鉛筆を用いて属人的に行われてきたシフト作成をAIにより自動化し、業務効率化・働きやすい環境を実現する。Biz Architectsはそんな「シフト改革プロジェクト」のサポートを行っています。
1ヶ年計画で進行中のプロジェクトは、現在どのような局面を迎えているのでしょうか。株式会社天一 代表取締役社長・矢吹友一氏と、Biz Architectsの大江真揮人にプロジェクトの全容と今後の展望を尋ねました。
飲食業界にとってシフト管理は「人件費の設計図」
――まずは「シフト改革プロジェクト」の概要から教えてください。
大江:天一さんは全国に46店舗を展開されていますが、各店舗でシフト作成が属人化していることが大きな課題となっていました。属人化の問題点は主に2つあります。1つ目は、本部がシフト人数をコントロールできないため人件費率の管理が難しくなるというクリティカルな経営上の問題。2つ目は、店長が異動や退職した場合、理想のシフトが組めなくなってしまうというオペレーション上の問題です。
矢吹:飲食店にとってシフト管理は「人件費の設計図」とも言えるもの。シフトのコントロールがしっかりできていないと、人件費の計算はもちろん、労務管理も崩れていきます。
大江さんがおっしゃった問題点の背景には、店長によってコスト意識にばらつきがあることが挙げられます。「今日はお客さんが少ないから早めにアルバイトを帰らせよう」と判断できる店長もいれば、「どんなに暇でも全員閉店までいるのが当たり前」と考える店長もいる。こうした属人的な運用はコストが膨らむ要因になるだけでなく、スタッフのマインドにも悪い影響を与えます。そのため、本部として、全店で統一した労務管理を実現し、コストコントロールに関与できる仕組みを作りたかったんです。
矢吹:飲食店にとってシフト管理は「人件費の設計図」とも言えるもの。シフトのコントロールがしっかりできていないと、人件費の計算はもちろん、労務管理も崩れていきます。
大江さんがおっしゃった問題点の背景には、店長によってコスト意識にばらつきがあることが挙げられます。「今日はお客さんが少ないから早めにアルバイトを帰らせよう」と判断できる店長もいれば、「どんなに暇でも全員閉店までいるのが当たり前」と考える店長もいる。こうした属人的な運用はコストが膨らむ要因になるだけでなく、スタッフのマインドにも悪い影響を与えます。そのため、本部として、全店で統一した労務管理を実現し、コストコントロールに関与できる仕組みを作りたかったんです。
――これまではどのようにシフトを作成していたのですか?
矢吹:紙と鉛筆を使い、人力で組んでいました。先月からようやくExcelでの入力が始まりましたが、それも完成したシフトを入力するのみ。シフト作成は依然としてアナログです。
――AIでシフト作成を自動化するにあたり、どのような課題がありましたか。
矢吹:世の中にはすでにAIを用いたシフト作成サービスが存在しますが、人数のみにフォーカスを当てた単純な組み方しか出来なかったんです。それでは、我々天ぷら料理店の業態にはマッチしません。
というのも、スタッフごとにスキルの習熟度にばらつきがあり、それによってお客様に提供できるサービスが異なるからです。例えば、料理の仕込みひとつとっても具材ごとにワークフローが違いますし、海鮮の中でも海老の下処置ができるかどうかなど、スキルセットを細分化した上で管理しているんですね。つまり、スキルと人数の2軸でシフトを考える必要がある。そのため、既存サービスでは対応できなかったんです。
というのも、スタッフごとにスキルの習熟度にばらつきがあり、それによってお客様に提供できるサービスが異なるからです。例えば、料理の仕込みひとつとっても具材ごとにワークフローが違いますし、海鮮の中でも海老の下処置ができるかどうかなど、スキルセットを細分化した上で管理しているんですね。つまり、スキルと人数の2軸でシフトを考える必要がある。そのため、既存サービスでは対応できなかったんです。
――そうした背景から、自社に最適化させたシフト調整ツールを開発することになったのですね。具体的にはどのように進めたのでしょうか?
大江:天一さんは、職種ごとに7段階のグレードで人事評価しています。天ぷらを揚げる職人の中でも、見習いクラスのグレード1から熟練クラスのグレード7まで分かれています。その判断の裏側には根拠となるスキルの評価基準が設定されていますが、とはいえ「人となり」が重要な役割を果たすのが飲食業界ですから、それだけでは拾いきれない部分があったんです。そこで私たちは、各店の店長へのインタビューを通じて評価における「暗黙知」を引き出す作業から始めました。
具体的には、まず矢吹さんから各スタッフの特性にまつわるヒントをいただき、それを元に仮説を立てて、YES/NOで答えられる質問項目を設計しました。その回答を元にAIのプロンプトに落とし込んでいく。この言語化の作業が一番時間がかかりましたね。
具体的には、まず矢吹さんから各スタッフの特性にまつわるヒントをいただき、それを元に仮説を立てて、YES/NOで答えられる質問項目を設計しました。その回答を元にAIのプロンプトに落とし込んでいく。この言語化の作業が一番時間がかかりましたね。
矢吹:インタビューしてみると、やはりグレードだけでは測れない要素が多分に出てきました。「この人は常連客からの指名が多い」「カウンターを担当できるけど1人だと心配」といったものですね。どれだけ細分化しても評価制度上に現れていないスキルがあり、それがサービスの質を左右することもある。
Biz Architectsの良いところは、そういった定性的な部分もしっかりインタビューで汲み取ってプロジェクトに反映してくれることです。きめ細やかに意見を吸い上げ、現場に即したシフト作りを進めてくれています。
Biz Architectsの良いところは、そういった定性的な部分もしっかりインタビューで汲み取ってプロジェクトに反映してくれることです。きめ細やかに意見を吸い上げ、現場に即したシフト作りを進めてくれています。
――インタビューは全店舗を対象に行ったのでしょうか?
大江:まずは規模が大きく業務管理が複雑な店舗を「代表店舗」と定義し、優先的に取り組みを開始しました。複雑なモデルに対応していれば、プロンプトを削っていくだけで他店に対応できますから。
経営層と現場の間を往復し、双方良しを実現する
――シフト作成を自動化した場合、店長とスタッフのコミュニケーションが減るなどの懸念が生じませんか。
矢吹:たしかに、シフト作成がコミュニケーションの機会になっている店舗もあるかもしれません。一方で、店長に直接「有休を取りたい」と言いづらいという声も社員面談で聞こえてきます。また、連続勤務が続いている人の存在が顕在化されず、事後的にしかわからないケースもありました。お店が忙しかった、シフトに入れるスタッフの数が足りなかったことが原因として挙げられますが、もしかしたら他店舗の応援で対応できるケースもあったかもしれません。
本部がシフトを一元管理することでそうした自体を事前に把握し、労務管理上のリスクを減らすことができます。当然、シフト作成にかかるリソースも削減できますので、起こりうるデメリットと比較して、メリットが格段に大きいと判断しました。
大江:店長も個別の相談に頭を悩ませることが減って、心理的負荷が軽くなるのではないでしょうか。例えば、今までの体制ではスタッフから「来週月曜日は絶対入りたいんです」と言われたときに、人数が多いとわかっていても断りにくかったという声もありました。
でも、自動化を実現できればそうした苦しいコミュニケーションがなくなり、正確なコストコントロールがしやすくなります。スタッフも公休がきちんと取れるようになりますし、お互いにとってメリットがある設計となっています。
本部がシフトを一元管理することでそうした自体を事前に把握し、労務管理上のリスクを減らすことができます。当然、シフト作成にかかるリソースも削減できますので、起こりうるデメリットと比較して、メリットが格段に大きいと判断しました。
大江:店長も個別の相談に頭を悩ませることが減って、心理的負荷が軽くなるのではないでしょうか。例えば、今までの体制ではスタッフから「来週月曜日は絶対入りたいんです」と言われたときに、人数が多いとわかっていても断りにくかったという声もありました。
でも、自動化を実現できればそうした苦しいコミュニケーションがなくなり、正確なコストコントロールがしやすくなります。スタッフも公休がきちんと取れるようになりますし、お互いにとってメリットがある設計となっています。
――プロジェクトを共に進める中で感じたBiz Architectsの支援の特徴はありますか?
矢吹:一言で言えば、現場目線で寄り添ってくれることですね。数字ありきで理想を描き、トップダウン型のアプローチを行うコンサルティング会社も少なくありません。でも、実際にそうしたやり方をしてしまうと、現場との間でハレーションを起こしてしまうリスクもあります。大江さんはどちらか一方ではなく、現場とトップのやりたいことの間を往復しながらバランスを取ってくれるんです。
大江:店舗型ビジネスには、大きく分けて本部主導型と店舗主導型があります。天一さんは本部主導型ですが、矢吹さんご自身が店舗の意見をしっかり聴く方なんです。だから私も「店舗の意向を汲み取った本部を見ればいい」とシンプルに考えることができました。矢吹さんとも進むべき方向が自然と一致するので、板挟みになることはほとんどありませんでしたね。
矢吹:板挟みは苦しいですもんね(笑)。
大江:店舗型ビジネスには、大きく分けて本部主導型と店舗主導型があります。天一さんは本部主導型ですが、矢吹さんご自身が店舗の意見をしっかり聴く方なんです。だから私も「店舗の意向を汲み取った本部を見ればいい」とシンプルに考えることができました。矢吹さんとも進むべき方向が自然と一致するので、板挟みになることはほとんどありませんでしたね。
矢吹:板挟みは苦しいですもんね(笑)。
シフト管理と需要予測を連動させた「未来のスタンダード」を目指す
――プロジェクトは1ヶ年計画のものですが、現在の進捗と成果について教えてください。
矢吹:いくつか追加でプロンプトへの追記が必要な点があるものの、第1弾のドラフト版を店長経験のある店舗管理担当者に見せたところ「ここまでできるのか」と驚いていました。今年の9月頃には、全店舗でAIを使用したシフト管理体制が構築できていると思います。
大江:プロジェクトのフェーズは2段階に分かれていて、現在はフェーズ1の途中段階。惣菜店、百貨店店舗といった業態ごとに代表店舗を設定し、それぞれのシフトロジックを完成させてから運用設計まで行い、フェーズ2で全社展開する計画です。フェーズ1の終わりは3月頃を予定しています。最初の1〜2ヶ月は従来の運用とAIによる運用を並行させて、「これでいける」という判断ができてからフェーズ2に進めます。
大江:プロジェクトのフェーズは2段階に分かれていて、現在はフェーズ1の途中段階。惣菜店、百貨店店舗といった業態ごとに代表店舗を設定し、それぞれのシフトロジックを完成させてから運用設計まで行い、フェーズ2で全社展開する計画です。フェーズ1の終わりは3月頃を予定しています。最初の1〜2ヶ月は従来の運用とAIによる運用を並行させて、「これでいける」という判断ができてからフェーズ2に進めます。
――将来的には別のプロジェクトでの協業を視野に入れているのでしょうか?
矢吹:ゆくゆくは需要予測に関しても支援してほしいと考えています。食材の仕入れにも関わってくるので、サービス業にとって需要予測は大きなテーマ。「今日はお客さんが何人来そうか」という予測は一部社内でも行っていますが、その精度をもっと向上させていきたいですね。需要が予測できれば、店舗運営に必要な人数がわかりますので、シフト調整と一気通貫で改善していくことができます。
大江:私は前職でファミリーレストランの需要予測に関わっていました。どんな要因が来客数に影響するのか、それをどう組み込むか、上流から下流までサポートしていきたいと思います。
大江:私は前職でファミリーレストランの需要予測に関わっていました。どんな要因が来客数に影響するのか、それをどう組み込むか、上流から下流までサポートしていきたいと思います。
――最後に、このプロジェクトへの期待をお聞かせください。
矢吹:飲食業は超アナログな世界です。Excelを導入するだけでもハレーションがありました。しかし、だからこそ変革のインパクトは大きいのです。
スタッフ1人の配置を最適化するだけでも、年間で見れば大きな効果がある。改革時は疑問視する声もあるかもしれませんが、この改革の先には全従業員が働きやすい環境があると信じています。現場の声に耳を傾けながら、必要な改革を行っていく。それこそが経営者の役割だと考えています。
大江:現場に即したシフト作りを実現することで、お客様にも、働くスタッフにも、会社にも良い結果をもたらしたい。AIは万能ではありませんが、現場の声を丁寧に拾い上げて言語化し、それをテクノロジーで形にしていくことが私たちの責務です。このアプローチを天一さんと一緒に磨き上げ、飲食業界のシフト管理における新しいスタンダードを作っていきたいです。
スタッフ1人の配置を最適化するだけでも、年間で見れば大きな効果がある。改革時は疑問視する声もあるかもしれませんが、この改革の先には全従業員が働きやすい環境があると信じています。現場の声に耳を傾けながら、必要な改革を行っていく。それこそが経営者の役割だと考えています。
大江:現場に即したシフト作りを実現することで、お客様にも、働くスタッフにも、会社にも良い結果をもたらしたい。AIは万能ではありませんが、現場の声を丁寧に拾い上げて言語化し、それをテクノロジーで形にしていくことが私たちの責務です。このアプローチを天一さんと一緒に磨き上げ、飲食業界のシフト管理における新しいスタンダードを作っていきたいです。
対談のお相手
矢吹 友一(やぶき ゆういち)さん
株式会社天一 代表取締役社長。慶應義塾大学経済学部を卒業後、アサヒビール株式会社にて業務用営業を担当。その後、辻調理師学校東京校にて料理を学んだ後、2017年に株式会社天一に取締役として入社。2023年より代表取締役社長を務める。
